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GNSSのシステム

このページでは GNSS のシステム等について記す。このページの内容より詳しいものがGPSの仕組み(原理・誤差原因、「みちびき」情報)にある。


  1. 概要

    衛星測位システムは space segment、control segment、user segment の 3つで構成される。space segment は測位衛星、control segment は衛星を運用管制する地上局、user segment はユーザー側の受信機を指す。利用可能範囲によって、全地球を利用可能範囲とする GNSS(Global Navigation Satellite System、地球的衛星測位システム)と特定地域向けの RNSS(Regional Navigation Satellite System、地域測位衛星システム)の2つのシステムに分類される。GNSS 信号の精度を補強する SBAS(Satellite-Based Augmentation Suystem、衛星航法補強システム) は地域の静止衛星および地上局から成るシステムで、大気による遅延や軌道誤差によって生じうる潜在的な誤差に対処する。以下の表に各システムの一覧を示す。

    衛星システム運用
    GNSS
    GPSGlobal Positioning Systemアメリカ
    GLONASSGLObal NAvigation Satellite Systemロシア
    Gallireo欧州連合
    BeiDou中国
    RNSS
    QZSSQuasi-Zenith Satellite System日本
    NavICNavigation with Indian Constellationインド
    SBAS
    WAASWide Area Augmentation Systemアメリカ
    EGNOSEuropean Geostationary Navigation Overlay Service欧州連合
    MSASMulti-functional Satellite Augmentation System (注1)日本
    GAGANGPS-Aided GEO Augmented Navigationインド

    【注1】^ 従来運輸多目的衛星(MTSAT、Multi-functional Transport Satellite)から配信していたものが2020年4月よりみちびきの静止軌道衛星から配信に変更された。

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  2. GNSSによる測位方法

    GNSS を用いた測位方法は、単独測位と相対測位の2つに分類される。

    【単独測位】
    衛星から送信される信号が衛星から送信された時刻とユーザー側の受信機で受信した時刻の差から伝搬時間が求まる。この伝搬時間に電波の速度を掛ければ衛星と受信機との距離が求まる。衛星には UTC(Coordinated Universal Time、世界協定時) に同期した(各衛星システムによってUTCとの差は異なる)精密な原子時計が搭載されているが、ユーザー側の受信機にはこれほど精密な時計は搭載されていないので、時間も未知数となる。ユーザーの現在位置は、緯度、経度、高さで未知数が全部で4つとなるから、現在位置を確定するには最低限未知数と同じだけの数の衛星が必要となる。
    【相対測位】
    大きく分けて2つの方法に分類される。一つ目の方法は2地点で同時に単独測位する方法である。位置が既知である基準局と観測点とでそれぞれ同じ衛星からの信号を受信すると2地点での時間差が観測される。この時間差により2地点の相対的な位置関係が求まる。この2地点が近ければ、誤差要因に示した衛星の軌道情報誤差、電離圏、対流圏による誤差が同じなのでこれらの誤差を相殺でき、位置精度を向上できる方法で DGPS(Differential GPS) と呼ばれる。二つ目の方法は干渉測位という衛星からの電波の位相を測定する方法で RTK-GPS(Real Time Kinematic-GPS) と呼ばれる。位置が既知である基準局で観測した位相データを観測点へ無線やネットワーク等を介して送り、その観測点においてリアルタイムで解析して位置を求める方法である。基準局で整数値バイアスNを求める必要があるが、この手法はかなり難解である。通常の単独測位で用いる C/Aコードのビット率が 1.023Mbps であることからこれを周波数と考えると 3×108m・s-1 / 1.023×106s-1 = 293m が分解能となる。一方干渉測位では L1帯の周波数が 1575.42MHz だから同様の計算で 0.190m が分解能となる。

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  3. 誤差要因

    【衛星の軌道情報、時計】
    各衛星から送信される信号に含まれる軌道情報(Ephemeris、エフェメリス)は地上の管理システムが衛星軌道追跡データに基づいて計算された予測値なので、実際の衛星位置は様々な影響により計算経路から少しずつ逸れていく。また、高精度な原子時計もずれは発生する。時計の場合、光速を 3×108m・s-1 とすると時計が 1×10-6s ずれると位置が 300m ずれる計算となる。なお、GPS衛星の高度が約2万kmで高さにより重力が異なることと衛星が時速1.4万kmで移動していることから一般相対性理論と特殊相対性理論の影響で GPS衛星に搭載された時計は地上の時計と比べて1日で30マイクロ秒ほど進むから 9km(参考ページの計算では約10km)の誤差となり、予め時計の補正をしている。
    【電離圏】
    地球大気の上層は、太陽紫外線やX線の吸収などにより、その一部がイオンと電子に分れた状態となっており、これを電離圏と呼ぶ。以前は電離層と呼んでいたし、GNSS関係の書籍、ページを読んでも電離層と書いてある。このページを書くために検索したところ、近年では電離圏と表記するようになったようだ。これが電波の異常伝搬や電波吸収、電波遅延などを引き起こすことにより誤差が生じる。電離層遅延量は、衛星から受信機までの電波経路の総電子数に比例し、電波の周波数の2乗に反比例する。
    【対流圏】
    対流圏とは対流が活発で、上空ほど気温が低下する地上から高さ10~16kmまでの大気の層のことで雲や降水などの天気現象は対流圏で起こり乾燥大気と湿潤大気によって電波が屈折する。電離圏とは異なり対流圏では電波の伝達は周波数に依存しないので周波数を利用した遅延量の計算ができない。そこで以下の式に示すような対流圏遅延モデルを使用して遅延量を算出する。
    対流圏遅延量 = (乾燥大気(気圧・高度)による天頂方向の遅延量×係数) + (湿潤大気(気温・水蒸気分圧) による天頂方向の遅延量×係数)
    【マルチパス】
    衛星からの電波は直進性が強く、物体に当たると反射しやすい性質がある。例えば都市部の建物、地面等によって電波の反射が起こり複数経路で受信機に到達する現象をマルチパスと呼ぶ。高仰角(仰角とは衛星と地平線のなす角度のことで、高仰角とは垂直に近い角度を意味する)の衛星からの電波はマルチパスが起きにくいので、衛星が天頂付近に存在するとこれによる影響を小さくできる。

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  4. 2周波測位

    2025年現在では L1帯とL5帯の電波を用いた2周波測位が可能な GNSSセンサーについてカタログでは、2周波、マルチバンド、デュアルバンド機能等と書かれている。GNSS衛星に搭載している時計の発信機の周波数は 10.23MHz であり、これの整数倍が各電波の周波数となっている。即ち、それぞれ 10.23MHz×154=1575.42MHz、10.23MHz×115=1176.45MHz である。誤差要因の項目で述べた電離層遅延量が周波数の2乗に反比例することを利用して、異なる周波数の電波を用いて到達時間差から電離層による影響量を推測し、これによる誤差を小さくすることが可能となる。また、L5帯の電波ではL1帯の電波を用いる場合に比べてチップレート(Chip Rate)という測位信号をコード化する周波数が 10倍大きいので耐雑音、耐マルチパス性に優れているのが利点とされる。なお、2025年現在 Googleを用いて「L5 メリット」を検索すると「L1、L2信号に比べて周波数が高く」とAIによる概要に表示されるのはこのチップレートと電波の周波数を混同しているページがあるためと思われる。一般的には波長が短い、即ち高周波数の電波の方が直進性が良い。

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  5. 参考ページ、文献