スイス仕様の特徴
編者は DT125R については国内仕様ですらほとんど知識が無いが、スイス仕様という海外仕様ならではと思われる特徴について以下に記す。
ヘッドライトは国内仕様セル付きと同形状の大型のものである。ヨーロッパでは標準と言われる丸型の変わったバルブが着いている。ウィンカもXT250Tと同形状の大型のもので、この年代のヤマハのトレールは皆同じであった。バルブは 21W である。
タコメータが標準装備なのも国内仕様セル付きと同様である。ただし、メインキーでハンドルロックはできない。
カラーリングはいわゆる YZブルーだが、3FWA とグラフィックは異なる。シートの部品番号は国内仕様と下2桁が異なるだけなので、同形状と思われる。ただし、シートバンドは無い。
ヨーロッパ仕様ならではと思えるのは、前後のフェンダーである。写真のようにリアは樹脂+ゴム、フロントはゴムのみで延長している。リアは元のフェンダーにリベット留め、フロントは元のフェンダーにビス留めしてある。
ハンドルロックはメインキーとは別のキーでステムヘッド部分でハンドルを右にフルに切って行うという仕様である。このため、ハンドルを左に切った状態で被せるタイプのカバーは使用できない。
タンクキャップはキーロック付だが、給油口の内部には蓋が着いており、給油時にはノズルを弁の中に突っ込む構造になっている。
キャブレータは 3FW 系と異なり、3ET と同形状のフラットバルブ TM28SS である。勿論、以下に示すようにセッティングは異なっている。3ET のキャブレータにはエアスクリュは無いが、4DJB のキャブレータにはエアスクリュは付いている。3RM のキャブレータとは異なりエアスクリュに蓋がされている。
チャンバーは途中に妙なフランジが付いている。取扱説明書によると触媒内蔵とのことなので、これがそうかも知れない開けてみると左の写真のようになっていた。開けるためには、T27T30のトルクスレンチが必要である。
国内仕様のシリンダの型番は 3BN であるが、スイス仕様の型番は 3MB となっており異なる。構造がどう異なっているのかは不明である。
撮影していないが、セル式スタータはない。そのためか、バッテリーも 3FW と同じ 12V3Ah の容量である。
スピードメータにはスピードリミッターのためと思われるリードスイッチが付いている。リンクにある The Home for DTR Information のページでは、これを移動するように説明している。
スイス仕様は YPVS のバルブを180度反対に取り付けてあるという噂があるが、実際にやってみるとまともにエンジンは回らない。バルブを駆動するプーリーを外した時、プーリー取り付け部の10時の位置に丸の刻印があるようにセットすると正常な配置となる。また、排気口から覗き込んだ時、バルブ表面が鋳肌で3MBの刻印が見える状態が正常である。
取り付け部のボスの形状が菱形になっているのがスイス仕様の特徴である。バルブが全開にならないようにプーリーがずらして取り付けられており、7000rpm 以上回らない。この写真で、取り付け部のボスの右上と左下の辺がプーリーに当たるように取り付けると、バルブは全開になる。
一般的な YPVS の調整やメンテナンスについて検索すれば詳細に説明しているページが見つかるが、例えば、SAKI's DT200WR motard (モタード)のYPVS清掃/点検/調整等が参考になるだろう。(2009年4月追記)
ある、 独善的思考な男のブログのエアクリーナーの規制のページにあるように(闇太郎さん、nfl97neさん情報感謝)、エアクリーナのホルダーに写真のようなリストラクターが装着されている。リベットで二箇所を固定してあるだけなので、取り外すことは容易である。(2009年5月追記)
スペック
国内仕様とスイス仕様その他のスペック等一覧を以下に示す。勿論、ここに挙げた以外の違いはある。内容は無保証である。利用される方は各自で内容の確認をお願いしたい。
(2008年6月記録)(2008年7月追記)(2008年8月追記、修正)国内仕様 2002
スイス仕様
4DJB2002
EU仕様
3RM2004
EU仕様
1D02001
TDR125R
4GX9DT200R
3ET3FW 3FW6 発売年月 1988年5月 1991年5月 ? ? ? ? 1988年6月 車体 全長 2145mm 2235mm 2170mm 2210mm - 2165mm 全巾 840mm 830mm 795mm - 840mm 全高 1225mm 1255mm 1200mm - 1260mm シート高 865mm 885mm 900mm - 885mm 軸間距離 1410mm 1415mm - 1415mm 最低地上高 290mm 315mm 300mm - 320mm キャスタ 27.30° 27° - 27.30° トレール 113mm 107mm - 113mm Fホイールトラベル 250mm 270mm - 270mm Rホイールトラベル 250mm 260mm - 270mm 2次減速比 53/17 57/16 - 53/17 チェーン 428 × 132L 428 × 134L - 428 × 132L 電装 バッテリー 12V3Ah 12V6Ah 12V3Ah 12V6Ah - 12V3Ah レクチファイヤレギュレータ EHU-01TR23 ? ? - EHU-01TR23 フラッシャリレー FZ222SD FD246BH ? - FZ222SD CDIユニット 3BN-85540-00 3FW-85540-00 3RM-85540-XX-00
いくつか仕様があるようだ1D0-85540-00-00 4GX0-85540-00-00? 3ET-85540-00 キャブレタ パーツナンバー 3BN-14101-00
3BN-14101-013BN-14101-01 4DJ-14101-02-00 3RM-14101-02-00 1D0-14101-00-00 4GX-14101-02-00 3ET-14101-00 型式 VM26SS
円筒バルブTM28SS
3ETと同じフラットバルブTM28-92 TM28SS TM28 刻印 3BN00 3BN01 4DJ00 3RM02 ? ? 3ET00 メインジェット #125
137-14143-25-A0#210
137-14143-42-00#240
137-14143-48-00#210
137-14143-42-00#270
137-14143-54-00#150
137-14143-30メインエアジェット φ0.8 ? φ0.7 φ0.8 ? φ0.5 ジェットニードル 4O7-3
3BN-1490J-005J25
3ME-1490J-00-005J40-2
1D0-1490J-00-00?
3ME-1490J-00-005J10
3ET-1490J-00クリップ段数 3/5 3/5 4/5 ? ? 4/5 スロットルバルブ(CA) 2.0
2RH-14112-202.5
2TV-14112-25-002.5
2TV-14112-25パイロットジェット #25
193-14142-25-A0#17.5
193-14142-17-00#25
1NT-14142-25-00#17.5
1NT-14142-17-00#20
1NT-14142-20-00#25
193-14142-25-AOパイロットエアスクリュ 1 ½ ? 1 ¼ ? ? - ニードルジェット P-2
1GU-14141-42Q2
1KT-14141-52-00Q2-M(#939)?
1D0-14141-52-00?
1KT-14141-56-00P-2
3ET-14141-42スタータジェット #20 #40 ? ? #25 パワージェット #40固定 ? #95 #60 ? #35 ニードルバルブ(VS) ?
37F-14107-25?
2MA-14107-28-002.8
2MA-14107-28パイロットエアジェット - 固定? ? ? φ1.4
239-14172-14スタータキット or
スタータプランジャ2AL-14171-00 4FU-1410A-00-00 3ET-1410A-00 吸排気系 ダクト 3BN-14437-00 3ET-14437-00-00 - 3ET-14437-00 エアクリーナ 3BN-14451-01 3BN-14451-01-00 - 3BN-14451-00 エアチャンバー
シリンダ側3BN-13581-00 3ET-13581-00-00 4FU-13581-00-00 3ET-13581-00 エアチャンバー2
エアクリーナ側3FW-13591-00 無し 3FW-13591-00-00 4FU-14431-00-00? 無し キャブレタージョイント 3BN-13565-00 3ET-13565-00-00 3ET-13565-01-00 2TV-13565-00-00 3ET-13565-00 リードバルブアッシー 3BN-13610-00 3MB-13610-00-00 4FU-13610-00-00 3BN-13610-00 YPVSバルブ 3FW-1131A-00 3MB-1131A-00-00? 3RM-1131A-00-00 4GW-1131A-00-00 3ET-1131A-00 チャンバー 3BN-14610-00 4DJ-14610-01-00 3RM-14610-00-00
3RM-14610-01-001D0-14610-00-00 - 3ET-14610-00 サイレンサー 3BN-14753-10 4DJ-14753-01-00 3MB-14753-01-00 1D0-14753-00-00 3MB-14753-00-00 3BN-14753-10 エンジン シリンダ 3BN-11311-00 3MB-11311-00-00 4FU-11311-01-00 3ET-11311-01 ピストン 2RH-11631-00-35
2YK-11631-04-35(006063~)3MB-11631-02-95 4FU-11631-01-A0 3ET-11631-02-95 クランクシャフトアセンブリ 3BN-11400-00 3RM-11400-00-00 4FU-11400-00-00 4FU-11400-00-00 2TV-11400-00 シリンダヘッド 3BN-11111-00
3BN-11111-02(003463~)3MB-11111-01-00? 3BN-11111-02-00 3MB-11111-01-00 4FU-11111-00-00 3ET-11111-00
3ET-11111-01その他 スパークプラグ BR9ES BR8ES BR9ES BR8ES BR9ES オイルポンプアセンブリ 3BN-13101-00 3RM-13101-30-00
3RM-13101-40-003RM-13100-32-00 3RM-13101-30-00 3ET-13101-00 ・以上の内容は以下の情報を参考にした。
・DT125R サービスマニュアル 3FW-28197-01, 3FW-28197-05
・ヤマハ発動機株式会社 部品情報検索
・Yamaha Motor Europe N.V. Owner Manual
・4DJB Parts List(リンク切れ)、1D0 Parts List(リンク切れ)、4GX9 Parts List(リンク切れ) 4DJB Parts List、 3RM Parts List、 1D0 Parts List、 4GX9 Parts List (2021年1月リンクを変更)
・Haynes Service and Repair Manual YAMAHA TZR125R and DT125R
リンク
プロスキルチャンバー&サイレンサー
記録している2008年8月現在で、DT125R 用の社外製のチャンバーやサイレンサーはほとんど無い。Pro Skill Parts はその製品の仕上がりの美しさに定評があるが、正確には DT125R(3FW) 用のチャンバーは製造していない。ただし、DT200R(3ET)用のチャンバーを DT125R に取り付ける事は可能である。勿論、この 4DJB への取り付けもできる。ただし、4DJB のサイレンサーとの接続部は国内仕様と異なる形状であるので、編者はサイレンサーも同時に購入した。この場合、チャンバーとサイレンサーの接続のために純正のガスケットも必要となる。
チャンバーの交換によって排気抵抗が小さくなるので、吸入する空気を増やすために通称豚鼻と言われるダクトを交換した。写真の上側が 4DJB のダクト(3ET のダクトに同じ)、下側が LANZA(4TP)用のダクトである。横幅は同じだが、4TP 用のダクトの方が厚みがある分、吸入部分の断面積が大きい。また、4DJB 用のダクトはエアクリーナケースに入る部分にわずかに突き出しがある。
これらを購入したのが 2008年7月で暑く湿度の高い季節であったので、とりあえず以下のセッティング変更で様子を見ることにした。記述の無い部品は変更していない。
2008年8月9日のセッティング メインジェット #260 パイロットジェット #25 クリップ段数 3/5 パイロットエアスクリュ 1 ¼ スパークプラグ BR9ES 必要な部品 名称 パーツ番号 数量 ガスケツト,マフラー 1W2-14714-00 1 クランプ,ホース 90460-37026 2 ガスケツト,エキゾ-ストパイプ 3PA-14613-10 1 ダクト 4TP-14437-00 1 ジエツト,メイン #260 137-14143-52 1 ジエツト,パイロツト (# 25) 193-14142-25-AO 1 リードバルブ
TT-R250 のキャブレータジョイントが破損して、DT125R も購入してから 13年近く経過したので、点検した。キャブレータジョイントは破損してなかったが、リードバルブストッパーが開いていたので交換し、2008年に購入した Boyesen の Power Reeds (BO-PWR-715) を装着した。これを執筆時の 2021年ではこの型番は廃番で現行の型番は BO-PWR-666 となっている。
キャブレータO/H
TT-R250 のキャブレータのオーバーフローを経験して、DT125R もキャブレータのメンテナンスを検討した。作業した2022年6月時点ではキャブレータアッセンブリは販売終了だったので、消耗品をいくつか交換することにした。生産終了から年数を経た純正部品の値段は上がっているので画像の K & F cabreter の 3ET用のキットを購入した。画像をクリックすると拡大する。他にも岸田精密工業株式会社という選択肢もあった。
左から、パイロットジェット、メインジェットとワッシャ、ジェットニードル、ニードルジェット、ニードルバルブ、ドレーンプラグ、スロットルスクリューセット、フロートOリング、トップガスケットである。この内、メインジェットとジェットニードル、ニードルジェットは型式が異なるので、ジェットニードルとニードルジェットは純正品を購入した。
車体からキャブレータを外すためには、エアクリーナケースを外すとやり易い。エアクリーナケースを外す前にバッテリーケースを外す。シリンダヘッドから供給される冷却水のホースを外す。TM28 の圧入されたフロートピンは抜き難く、本体のステーを折ってしまったという記事が散見されたので、押し込む側の反対側のステーを百円ショップの1/4Dr.のソケットで受けてシンワ測定オートポンチM 77317 でピンを押したら容易に抜けた。WWW上で得た、押すと飛び出すオートポンチを用いるアイディアは有難かった。フロートピンは車体右側から左側に向けて取り外す。組付けは逆に車体左側から右側に向けて圧入することになる。TT-R250 では取り外し難かったバルブシートはすんなり抜けた。パイロットジェットの脱着には先端部がテーパーではなく平行になっている専用のマイナスドライバー(ストレート社のキャブレータージェットドライバー 12-650)が有効で、特に固着も無かった。ニードルジェットは軽く圧入されているが、これも取り外しに苦労しなかった。使用年数は長いが、毎週短距離でも走行することでガソリンが腐ることが無いからだと思っている。
各部品を取り外して洗浄したら、後は順番に組み付けるだけである。キットのパイロットジェットとニードルバルブに交換し、メインジェットは交換しなかった。純正品のジェットニードルキットとニードルジェットに交換した。キットのドレーンプラグは純正品と異なり、頭がマイナスだった。ドレーンプラグは車体に取り付けた状態では締め難い。フロートOリング、トップガスケットは交換した。スロットルスクリューは交換しなかった。
冷却水交換
リザーバタンク内の冷却水が汚れており、キャブレータO/H の際シリンダヘッドから供給される冷却水のホースを外す必要があるので、ついでに冷却水を交換することにした。まず、レーシングスタンドを使って車体を垂直にしておく。リザーバタンクを外し、ブリーザパイプをリザーバタンク側で外す。冷却水を受けるバケツを用意して、ウォータポンプのドレンボルトを外す。ラジエータキャップのストッパを外し、ラジエータキャップを緩める。ラジエータキャップは二段階で緩めるようになっている。ラジエータキャップは画像のようにパッキンにヒビが入り、歪んでいたので純正品に交換した。冷却水が泥水のような色になっていたのは、画像のようにドレンボルトの腐食が進んでいたためと思われる。リザーバタンク内を洗浄して装着した。
ドレンボルトを外したままラジエータキャップ側から水道水を注入して軽く洗浄した。サービスマニュアルによると3FW のエンジン、ラジエータの冷却水容量は 0.7L、リザーバタンクの容量は 0.35L なので、冷却水は 1.05L 必要である。ラジエータの洗浄剤としてホルツのスピードフラッシュ MH304 を用いた。冷却水容量 5~10L に対してこれを 250mL 加えるので、洗浄剤 100mL に水道水を加えて 2L の洗浄液を作製した。一旦ドレンボルトを装着してから作製した洗浄液を規定水面まで注入し、エンジンを始動して 20分間程循環させてから、ドレンボルトを外して洗浄液を抜いた。これを 3回繰り返して最後に水道水を用いて同様の洗浄を行ってから冷却水を注入した。冷却水はヤマルーブロングライフクーラントを用いた。クーラント 500mL に対して市販の精製水を加えて 1L の冷却水を作製した。冷却水路内に空気が混入しないようにゆっくり少しずつ注入した。注入している間にゴボゴボと音がしていたので、冷却水路内の空気はこの時点で少しは抜けていたと思われる。
エンジンを始動すると冷却水路内の空気が抜けて水面が下がるはずだが、そのような事はなく、むしろ水面が上がってきた。DT125R では空気が抜けやすい構造になっているのかも知れない。水温計の目盛りが半分程度に上がったのを確認してからエンジンを停止し、冷却水の規定水面を確認した。ラジエータキャップを装着してリザーバタンクの FULL と LOW の中間まで冷却水を注入したが、100mL 程余った。
Haynes Service and Repair Manual
Haynes社 とは外国車の整備解説書で有名らしい。4輪だけではなく、2輪の整備解説書もあり、欧州で販売されている輸出車のものも多い。編者は TZR125R と共に解説してある本書を購入した。DT125R に関しては 3DB1、3RN1~9、3RM9~M に関して記述してある。洋書であるので購入には、AMAZON を利用した。
内容は写真やイラストを多用して割と親切で、配線図もついているし、基本的な整備に関しては充分であるが、英文であるのが辛い場合もあろう。特に EU仕様だからと言って、この整備解説書が必要とも思えず、必要なら一般的には入手しやすい日本向けのサービスマニュアルがあれば良いと思う。